短説と小説「西向の山」 ホーム随筆の庭>夜の散歩〜ラジオ


  夜の散歩〜ラジオ
     ――「僕の原体験」より

西山正義




  夜の散歩


  夜の散歩に出たんだ
  晩飯の腹ごなしにね
 
  四十五年も住んでいる町さ
  目新しいものなんて何もないのに
  いちいち感傷的になってしまうんだ
 
  十代のころも
  街を彷徨っては
  感傷的になっていたけど
  四十九の今は
  その質が違うんだ
  決定的に違うんだ
 
  猫がいたんで
  誘われて
  お山公園に入ったのさ
  正式な名称があるわけじゃないんだが
  むかしから「山公」って言われている
  団地の中の小さな公園だ
 
  久しぶりに来たら
  新しい遊具が設置されていた
  ここ十五年ぐらいの間に
  何度か整備改修されているが
  全体のイメージは四十年前とそう変わらない
 
  真ん中に
  コンクリートの小山があるのさ
 
  小学六年生のころ
  BCLが流行っていたんだ
  今ではBCLって何だって言われそうだけど
  Broadcasting Listening または Listener の略で
  ラジオ放送(なかでも短波による海外放送)を聴取し
  受信報告書を書いて(エアメールで送り)
  いろんな放送局のベリカードを集める趣味さ
  あとから思い返せば
  海外のニュース(宗教や人種問題、紛争に貿易摩擦、
  東西冷戦だの緊張緩和だの)よくわからなくても
  洋楽や英語に目覚めるきっかけになった
  小学生にしては高級な趣味だったね
 
  午後八時にはじまるBBCの日本語放送
  これが電波状況によって
  なかなかきれいに聴くことが出来なかったんだ
  季節は忘れたが
  同じクラスの仲間五六人で集まったのさ
  その小山に
 
  ソニーのスカイセンサー5800が憧れで
  僕は対抗し、あえて
  “ナショナル”パナソニックのクーガ115
  でも当時最新機種の5900を買ってもらった奴がいて
  たぶんそれも持ち寄ったんではなかったか
 
  午後八時
  小学生が外に出るには遅い時間だ
  ダイヤル(もちろんアナログだ)を合わせる
  ビッグ・ベンの鐘の音が公園に響く
  BBC放送の始まりの合図だ
  そう、遥かロンドンからの音!
  僕らは狂喜乱舞し
  そう、本当に踊ったのさ
  輪になって
  その小山で
 
  その小山は改修され
  つまり上からコンクリートが塗られ
  少し大きくなったような気がする
  洗練されてしまってはいるが
  基本は変わらない
  それが今でもそこにある
 
  ただそれだけのことなんだけど……


  住宅北口の横断歩道

わが町の“Abbey Road”
(平成23年8月8日撮影)
住宅中央野球場

僕らのホームグラウンド
(平成27年2月14日撮影)
おやま公園

おやま公園
(平成27年2月14日撮影)
その小山

その小山
(平成27年2月14日撮影)

〔初出〕平成24年9月11日「短説[tansetsu]ブログ」

猫の誘われて

  ラジオ


  調べてみたら
  (今は簡単に調べられますね)
  ソニーのスカイセンサー5900が出たのは
  一九七五年の一〇月とのこと
  すなわち昭和五〇年だ
  子供に言ったら
  「昭和時代」と笑われるだろう
 
  誰だったのかは覚えていないが
  クラスの一人が発売すぐに手に入れたはずだ
  ということは
  季節は晩秋から冬
  一二月頃だったのかもしれない
  もしかしたら
  クリスマスのプレゼントで手に入れたのかも
  そうだとすると
  一二月も暮れに近い
  冬休みに入ってからか
  小学生が夜に集まるなんて
  やはり休み中のことかもしれない
 
  僕のクーガ115は
  ステンレスのヘアーラインを貼ったような
  メタリック調のフロントパネルが特徴で
  真ん中に16cmのダブルレンジスピーカーが
  どーんと嵌まっている
  ジャイロアンテナなんていう
  回転式のアンテナが付いているのが
  特徴の一つだった
 
  この手の機種の中では
  音がよかった
  とはいっても
  その外部入力にマイクロホンをぶち込み
  時には二股ソケットを使い二本ぶち込み
  ボーカル・アンプにしていたのは無茶な話だった
  でも十分に使えた
  そんな時代
 
  中学三年から高校時代にやっていたバンド
  その活動場所は自宅に限られていた
  (スタジオミュージシャンを気取っていたのか?)
  とにかくひたすら曲を作り
  (コピーは一切せず
  オリジナルしかやっていなかった)
  ひたすら「アルバム」の“レコーディング”に
  いそしんでいた
  没頭していたと言った方がいいかもしれない
 
  いや、その話は別にしよう
  僕のクーガ115は
  のちにボーカル用のスピーカーとして
  大活躍することになるのだった
 
  そう、この昭和五〇年の一二月
  僕は十二歳と八か月
  そう、たぶん、この頃から
  僕は(幸か不幸か)「目覚める」ことになる
  音楽に「出会った」のもこの頃だ
 
  その発端の一つがラジオだったといえる
  (ほかに、天文学や鉄道なんていうのもあるけど)
  国際的なニュースに耳を傾け
  極東地区への布教を目的とした
  キリスト教の宗教放送まで熱心に聴いていた
 
  でもね、それにはね
  わけがあるのですよ
 
  僕は小学四年の終わりから
  中学受験のための勉強を始め
  当時は今以上に特殊な存在だった
  「四谷大塚」なんていうところにも通っていた
  最初は嬉々として
  しかし、いよいよ受検が迫ったこの頃になって
  僕は息切れがしていたのだ
 
  試験前になると
  関係のない本が読みたくなる式のあれだが
  それだけでなく
  おそらく、いわゆる第三次性徴の発現
  とも関わっていたのだろう
  四月生まれの僕は同級生の中では早熟で
  この頃すでに声変りしていた
 
  そこに
  ラジオ(聴取に加えて、作る方も)
  それに、天文学、鉄道
  (それらの専門的な難しい雑誌を読むこと)
  そして、音楽(洋楽)
  さらには宗教に考古学
 
  つまり「知」の世界に導かれたのだ
  誰もが多かれ少なかれ経験があるだろう
  最近では「中二病」なんて言葉もある
  若気の至りのようなものだ
  でも、僕は人並み以上に
  その深いところで
  本質的に影響されてしまったのだ
  それは掛け替えのないものではあるけれど
  ある意味では
  それが不幸の始まりともいえる
  生きづらさの……


  は・大公園

はむね大公園
(平成23年8月8日撮影)
ナショナル・クーガ115

NationalのCOUGAR115(RF−1150)
1975年製(2015年2月15日撮影)
Victor RC−S5

Victorのステレオ・カセット・レコーダー
1979年製(2015年2月15日撮影)
さる山公園

さる山公園
(平成23年8月8日撮影)
5バンド・ラジオ受信機

FM、MW、短波3バンド・ラジオ受信機
(平成27年2月15日撮影)

〔初出〕平成24年9月13日「短説[tansetsu]ブログ」

根川通りの桜並木(2011.4.12)

〈参照1〉ブログへリンク散歩の副産物(平成26年6月12日「短説[tansetsu]ブログ」)

〈参照2〉短説作品へリンク向山葉子の短説「ラジオ」(平成17年10月作→平成18年1月号「短説」)


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