いつもの道
向 山 葉 子
涙と鼻水。真っ赤なほっぺ。しゃくりあげ
るヨシトの手を引いて、マヤは歩いていた。
マヤの顔も涙と汗で薄汚れている。道だった
場所に立って眺めた景色は、破壊された家々
の残骸。いつか社会科見学で行った夢の島の
ようだった。かろうじて立っているのは、二
人が通う小学校の左半分。右側は鉄骨が魚の
骨のように突き出ているだけだった。あそこ
に行けば、だれかがいるかもしれない。マヤ
に今考えられるのはそれだけだった。
ヨシトが急に走り出した。「ユウタくんと
ハルミだ」ユウタは、汚れた手で涙をぬぐい
ながら歩いていた。ハルミはユウタのシャツ
を握りしめていた。四人は黙って、学校への
道なき道を歩いた。鈴木さんの畑の上に、コ
ンクリートの瓦礫が転々ところがっている。
「トトロの木、たおれてるね……」
「団地もなくなってる」
校庭はこの間みんなで掃除したばかりなの
に、いろんなものが散乱している。バットも
グローブも、サッカーボールも。ケンジとダ
イキが、それを拾い集めていた。チイちゃん
はしゃがんで、携帯ラジオを聞いている。
「ほかのやつらは?」とケンジ。
「わかんない」マヤは中学生のケンジの顔を
見て、泣き顔になった。
「生きてたら、みんなここに集まってくるよ」
ケンジとダイキは潤んだ声で言い合った。
「チイちゃん、ラジオ貸して」
ケンジがイヤホーンを耳に入れた。
「ミサイル、新宿からそれたんだって。調布
の情報は……わからないって」
「アメリカ、守ってくれるよね」
ヨシトが大声で泣きだした。
「今、イラクと戦争してるから」
ケンジはイヤホーンを外した。